2005年9月6日
災害援助や平和活動における こころのケアとしてのタッピング・タッチの利用
新潟中越とウガンダの元子供兵リハビリ施設における実践と調査
中川一郎(ホリスティック心理教育研究所)
発表の目的
1999年に開発されてから、タッピング・タッチは、心理、教育、福祉、医療などの専門分野での利用に加えて、災害援助におけるこころのケアの技法としての利用が試されている。タッピング・タッチが、災害援助においてどのような役割を担うことができるか等、事例を通して報告する。また、ウガンダでの実践と調査の結果をもとに、紛争などでトラウマを受けた子供たちや元子供兵たちへの心のケアとしてのタッピング・タッチの利用についても考察・検討したい。
タッピング・タッチ
タッピング・タッチとは、指先の腹のところを使って、軽く弾ませるように左右交互に優しくたたくことを基本としたホリスティック(統合的)でシンプルなケアの技法である。「基本型」以外に、「セルフ・タッピング」と「ケア・タッピング」があり、一般での利用と対人援助の専門分野での利用が可能。
タッピング・タッチによる効果(実践やリサーチなどに基づく)
1. 心理的効果
- 不安や緊張感が減り、リラックスする
- 肯定的感情(楽しい、ここちよい、気が楽になる等)が増える
- 否定的感情(いらだたしい、深刻、寂しい等)が減る
- こだわりがほぐれ、積極的またはプラス思考になる
- とても大切にされた、いたわってもらった感じがする
- 幼い頃のことなどを思い出し、穏やかな気分になる
2. 身体的効果
- 体の緊張がほぐれて、リフレッシュする
- 体の疲れや痛みが軽減する
- 身体的ストレス症状(体の緊張や痛みなど)が減る
- 麻痺していた身体感覚が正常になる
- 副交感神経が活発になる傾向がみられる
3. 人間関係における効果
- 場が和やかになり、交流が深まる
- 親しみがわき、安心や信頼感を感じる
- 話しやすくなる・話したくなる
- 家族でのスキンシップや会話が増える
- 自立した関係でお互いがサポートしあえる
- 臨床経験からは、ストレス症状、不安・緊張、うつ的な症状、PTSD、神経症、心身症、不眠症等を含む様々な症状に対して、直接または補足的効果が確認されている。
参考資料:「タッピング・タッチ-こころ・体・地球のためのホリスティック・ケア」(朱鷺書房:単行本 2004)
タッピング・タッチ協会・ホリスティック心理教育研究所
〒510-0031 三重県四日市市浜一色町14-16
TEL:059‐328‐5350 FAX:059‐328‐5351
E-mail:/HP:www.tappingtouch.org
事例1:ウガンダにおける元子供兵たちの心のケア
ウガンダにある「元子供兵」のリハビリ施設(WorldVision とGUSCO)を訪れ、タッピング・タッチをスタッフに紹介し、元子供兵のこころのケアの一環としての利用を試みた。また、描画や顔尺度などを使ってパイロット調査も行い、こころのケアとしての有効性も調べた。(2005年3月)
10人の子供(11歳前後)たちに体験してもらった結果として、「気持ちがよかった」「眠くなった」「楽になった」「またやりたい」などの感想が聞かれた。タッピング・タッチをしあっているところを観察していても、だれも嫌がったり茶化したりする子供はなく、みんな心地よさそうにしあっていた。してもらっているうちに、椅子の背もたれにもたれかかるようにして居眠りし始める子供も多く、心地よさやリラクセーションを推測することができた。
パイロット調査としては、クレヨンと紙による描画と顔尺度(5段階)による測定方法を使い、タッピング・タッチをする前と後の内的変化などを測定した。また、タッピング・タッチの後、子供たちから感想を聞くことによって、彼らの体験を理解するようにした。
描画と顔尺度による測定結果からは、タッピング・タッチによる肯定的な内的変化が示された。具体的には、トラウマに関連した内的イメージや記憶が肯定的に変化し、日常的なイメージや興味が高まったことが、10人中の8人までの描画と顔尺度の変化によって示された。紛争などによって強いトラウマを経験した元児童兵たちにとっても、過激な再体験や副作用なく、タッピング・タッチによって心的外傷が軽減されることが示唆される。
子どもたちの反応やリサーチ結果は、元児童兵のリハビリ施設においてのタッピング・タッチのこころのケアとしての有効性を示した。このため、現在NGOが建設中の生活支援型のリハビリ施設への導入が考慮されている。今回は、10名のうちの6名が1度、そして残りの4名は2度(2日にわたって)タッピング・タッチを体験したが、継続的(または日常的)におこなうことによって、さらに治癒的効果や内的変化がおこることが推測される。また、今回はパイロット調査であり、初期的なデータによる分析結果であるため、今後のリサーチと臨床経験による効果や有効性の確認が必要である。
また、ウガンダでのさまざまな対象や施設での体験によって、タッピング・タッチは:1)文化や生活様式が異なるウガンダの人たちにとっても違和感が少ないこと、2)基本的なインストラクションは同じでよいこと、3)現地語でおこなうほうが受けとめられやすく効果的である、などの確認もすることができた。
クレヨンによる描画 タッピング・タッチをする前と後(抜粋)1
前 → 後
クレヨンによる描画 タッピング・タッチをする前と後(抜粋)2
前 → 後
クレヨンによる描画 タッピング・タッチをする前と後(抜粋)3
前 → 後
クレヨンによる描画 タッピング・タッチをする前と後(抜粋)4
前 → 後
上記の絵は4人の元子供兵が描いたもので、タッピング・タッチをする前と後の変化が見られる。この4人の描画で共通しているのは、戦闘シーンから日常風景(食べ物、料理器具、家など)に変化していることであり、肯定的な内的変化やトラウマ(心的外傷)の軽減がおこったことを示唆している。
Research conducted by Ichiro Nakagawa, Ph.D.
at NGO GUSCO in Gulu, Uganda on March 3 & 4, 2005