やさしいタッチで不安や緊張が和らぐ~震災の被災地で活躍
タッピングタッチの開発の背景には、私のアメリカでの体験があります。
私は、アメリカの大学で臨床心理学の博士号を取得して、地域の精神保健センターや総合病院の精神科、薬物依存患者の施設などで治療に関わりました。
そこで感じたのは、「治療者や施設を増やしても病気は減らない」ということでした。
確かにアメリカは医療の面でも先進国で、治療技術も最先端。心理的なケアも行き届いています。
にもかかわらず日本でいうところの「生活習慣病」の患者は増える一方で、心の病気に関しては子どもを含む多くの患者が睡眠薬や抗うつ剤なくしては生活できない状況でした。
そんな状況を目の当たりにして、病気を治してくれる治療者や薬に一方的に頼るのではなく、自分たちで心身をケアする方法が必要だと考えたのです。
開発においては治癒的効果はありながらも副作用がないことが大切でした。
他にも、「シンプルで誰でもできる」「お金がかからない」「高度なトレーニングや技術を必要としない」などを考慮していきました。
理論をもとに試行錯誤と実践を通して行き着いたのがタッピングタッチです。
タッピングタッチの基本形は、2人でペアになり、1人が後ろに回って相手の背中などを やさしく、ゆっくり触るという形です。
タッチの仕方はいくつかあって、たとえば指先の腹のところを使って軽く弾ませるようにやさしく叩く「タッピング」。手を軽く丸めてネコが足ふみをするように行う、題して「ネコの足ふみ」。手のひら全体でやさしく触れる「ソフトタッチ」など、いろいろあります。タッチは左右交互で、速さはゆっくりが基本です。
基本形の他に、自分で自分をケアする「セルフタッピング」と、介護や看護などのケアの現場でも活用できる「ケアタッピング」があります。
東日本大震災の避難所にボランティアに行った時、NHKの『ためしてガッテン』の取材を受けました。避難所にいる被災者の多くが「夜眠れない」という悩みを持っていました。昼間は瓦礫の片づけをされているのですが、夜は不安や緊張で眠れないのです。
そういう状況の人たちにタッピングタッチをしていただきました。初めは「別に何も感じないよ」といった反応もありましたが、しばらくするとリラックスして眠ってしまう人も多く、 司会の立川志の輔さんが驚いておられました。
タッピングタッチはマッサージではなく、ソフトに触れていきます。これが不安や緊張感を和らげ、自然に眠りが訪れるのです。
また専門家でなくても、親子、夫婦、初めて会った人同士でもすることができます。その上、されている人だけではなく、している人も癒されます。
し合っているうちに、お互いへの安心や信頼感が高まり、良い関係が育つことも多いのです 。