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みやざき中央新聞への掲載 パート1

2017/05/30協会より

心にも、体にも、タッピングタッチ! 1

ゆっくり、やさしくふれて「健康になろうとする内なる力」に働き掛ける

一般社団法人タッピングタッチ協会代表・臨床心理学者 中川一郎

<硬直していた体が緩んできた>  

私が開発した「タッピングタッチ」を紹介する前に、まずタッピングタッチをベトナムで 実際に試みた話をさせていただきます。

2009年、私はベトナムのホーチ・ミン市を訪れました。ベトナムは長年にわたる戦争で約300万人が殺され、戦争が終わって40年以上経つのに今もつらいトラウマ(心の傷)を抱えている人がたくさんいます。  

私が向かったのは、結合双生児だったベトちゃん・ドクちゃんが分離手術を受けたツーズー病院です。戦争時の枯葉剤散布の影響を受けて奇形で生まれた子どもや障がいのある子どもを治療したり、ケアする病棟がそこにあるんです。当時もまだ奇形の赤ちゃんが生まれていました。

そこでタッピングタッチを役立ててもらうことがその旅の目的でした。

同行したボランティアが2歳くらいの子の手足をさすりました。その子の体は硬く、腕はちょうどボクシングの構えのように、胸の前で拳を強く握っていました。片足はタオルのようなものでベッドにくくり付けられていました。ボランティアの1人が「硬く握った手も体も緩まないですね」と言いました。

私はその小さな体にゆっくりとタッピングタッチをしていきました。

10分くらいやっていると、腕のこわばりが緩み、硬く握っていた手が開き始めました。 そして時折笑顔を浮かべたり、抱っこしてほしいかのように手を伸ばしてくるようになりました。

次に、その子の隣に寝かされている5歳くらいの子にもタッピングタッチをしました。その子は、体が右によじれ、腕が折れ曲がったような格好で硬直していました。最初の子どもより重症で 、断続的に声をひねり出すように泣くので、私はいたたまれなくなりました。  

その子にもタッピングタッチをしていきましたが、何も変化は起こりませんでした。その子の苦しみだけが伝わってきて、私にとってつらい時間でした。

 何の罪もないどころか、戦争が終わって30年以上(当時)経つのに戦争の影響を引きずって生まれてくる子どもたちがいるという現実に涙が止まりませんでした。

私は無意識に、硬く握っている彼の手を包むように触れていました。するとふっと泣き声が止まり、やがて手足のこわばりが緩んできました。20~30分のタッピングタッチで手足が伸びてリラックスした体になっていったのです。

彼は「誰が僕の体を触っているんだろう」と言わんばかりに目をきょろきょろと動かし 始め、顔を近づけるとちゃんと私を見てくれました。

 この体験は、私にとって重要なものでした。帰国後に研究発表などで伝え、国内の重症心身症の施設などでの利用に繋がっていきました。

<赤ちゃんにもできる心のケア>

 「タッピングタッチ」とは、ゆっくり優しく丁寧に、手のひらや指の腹で相手の背中や頭を左右交互にタッチすることを基本としたホリスティック(統合的)な心身ケアの方法です。とてもシンプルですが、互いにケアし合うことで共に「健康であろうとする内なる力」に働き掛けます。

この「健康であろうとする内なる力」というのは、違う言葉でいえば自己治癒力、自然治癒力といわれていますが、そういうものが人間にはあります。それが滞ったり、弱くなると体が固まってしまうんです。その力を取り戻そうというケアなのです 。

一見するとマッサージというか、体のケアのように見えますが、実は心のケアとしてタッピングタッチは、非常に有効なのです。言葉に頼らない心のケアだからです。

普通、心のケアというとカウンセリングがあります。これは言葉の力が大きいです。「沈 黙もいいですよ」といってもやっぱり言葉がないとなかなか心のケアにはなりません。だから、赤ちゃんにカウンセリングはできないと思うんです。

しかし、タッピングタッチは赤ちゃんにもできる心のケアなのです。それからコミニケーションが困難な障がい者の人や認知症の人の心のケアにも有効なツールになります。

<思いやりや愛は贅沢品じゃない>

マザー・テレサが日本に来られた時、「人間の微笑み、心のふれあいを忘れた人たちがいます。これはとても大きな貧困です」と、このようなことを言われました。  

マザー・テレサは日本に来られて、日本人の「貧しさ」を感じられたのです。当時、日本は高度経済成長のただ中を突っ走っていましたから経済的にはどんどん豊かになっていました。つまりマザー・テレサは精神的な面で「貧しい」と感じられたのです。人が微笑みを持っていないとか、人々が精神的につながっていないとか、経済成長を遂げていく時代にそんなことを感じておられたんですね。あれから随分と時が経つわけですが、その現状はもっと深刻になっている感じがします。

チベット仏教のダライ・ラマ法王はこう言っています。「思いやりや愛は贅沢品ではありません。それは自分の内と外の平和の源として、人類が存続していくための必需品なのです」  

「思いやり」や「愛」は、私たちが生きていく上でなくてはならないものですよね。皆さんも「そうだ、そうだ」と言うでしょう。

しかし現代社会でまず大事なのは「自分」です。次に「お金」や「物」あるいは「権力」、そこに価値を見出している時代です。でもその対極にある「思いやり」や「愛」がないと本当は生きていけないんです。

これがどうタッピングタッチと関連するのかというと、それは「ゆっくりやさしくケアし合う」ということで表現しています。

タッピングタッチによる安全なふれあいやケアの体験を通して、思いやりの気持ちを取り戻し、支え合いのある関係を取り戻していくことができるのです。

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