熊本地震における タッピングタッチによる被災者支援(2016年5月9〜15日)
活動報告:中川一郎
5月9日から15日までの1週間、熊本での支援活動を終わって帰りましたので、ご報告させていただきます。詳しく書けませんが、このレポートを通して、現地の状況やタッピングタッチによる支援のあり方を知っていただき、今後の支援へ繋がっていくことを願っています。
<5月9日>
初日はまず熊本空港へ着き、東京からフライトインした自由学園の更科さんと学生4名(小林、松島、勝沼、黒沼)と合流しました。学生たちは、みんな精悍な感じで日本の未来に期待できそうな素敵な若者たち。レンタルした大型のバンを、颯爽と運転するのは更科さんでした。
まずはファミレスで腹ごしらえをして、熊本市の白川小学校へ。福岡から駆けつけてくれた野田さん(臨床心理士・TTインストラクター)と学校で合流して、約30人の教員対象の講座をおこないました。
先生たちも、程度の違いはあれど、みなさん被災されていました。ちょうど翌日から生徒達が登校するタイミングで、とても疲れておられたと思いますが、熱心にタッピングタッチを学んでくださいました。講座が終わるころには、リラックスし笑顔が戻り、職員室へ戻ってきた先生たちを見て、教頭先生も驚かれたほどでした。
「明日からの生徒の心のケアに利用します」と言ってくださる先生もおられ、とても良いサポートと種まきになった実感がありました。この日、会議から帰られた校長先生に、更科さんがTTをする機会もあり、初日の活動は無事完了、といった感じでした。(この日の体験が良かったため、後ほど、生徒を対象にした講座の依頼がきました)
<5月10日>
2日目は、自由学園のHPにアップされている文章をお借りします。
(フォトなどもアップされていますから、良かったらアクセスしてみてください ⇒ https://www.jiyu.ac.jp/boys/boys.php )
『熊本大学教育学部の学生の皆さんにタッピングタッチの講習を行った。避難所などに行きボランティアをしたかったが、何をしたら良いかわからなかった学生さんは、今後支援するための手法を学べて良かったと喜んでいた。
苫野一徳先生の教育思想という講義の中で行わせていただき、自由学園の学生・生徒が支援をなぜ行うのか、自由学園の教育との関連について問いが立てられた。
困っている人がいたら足を運んでサポートすること、実践的な学びの重要性が学生から語られた。
その後、阿蘇市立一の宮小学校に行った。現在も避難所として50名ほどの方が体育館に避難されていた。ここでは避難されている方と支援者の方を対象にタッピングタッチによる心のケアを行った。
ケアをさせていただいた後は「身体がポカポカする」「眠たくなってきた」など感想が
聞かれた。段ボールの上に薄いマットを敷いて布団にしている方のストレスが軽減されたことが実感できた。
同行して下さっている中川一音さんが、熊本県民テレビKKTのテレビタミンという番組で被災者支援としてタッピングタッチを紹介された。
この日のKKTのテレビタミンへの出演はほんの8分足らずでしたが、アーケードでの生中継とあって、けっこう緊張しました。この番組のビデオは追ってタッピングタッチのHPにアップしていただきます。(冷や汗ものですが、よろしければ参考にしてください)
<5月11日>
3日目の午前中、自由学園の関連の「友の会」を訪れ、TTの体験講座(2回)をさせていただきました。そして、心のこもったランチをいただいた後、緊急災害周産期対策プロジェクトのスタッフとお母さんたちに体験していただきました。次の場所への移動がせまりあまり時間がとれなかったのですが、前日から合流された自由学園のソーシャルワーカーの入海さんにフォローしてもらえて良かったです。
(東京から学生の岡崎さんと二人で来られました)
この日の午後は、二手に分かれての行動でした。下記は学生の勝沼さんの文章です。
『その後、初日に訪れた白川小学校に行き小学5年生と6年生、特別支援学級の生徒を対象にタッピングタッチを行い生徒の大半が寝てしまうくらい気持ちのいい講習となりました。
ルーテル学園では学校案内をしていただき実際に地震でひびの入った場所や天井などを見て改めて地震の大きさと自然災害の怖さを感じました。
この日の午後、更科さん達と分かれて、単独で南阿蘇へ行きました。インストラクターの高野さんの後輩にあたる山戸さんのアレンジメントで可能になったのですが、片道2時間近くの道中、道路や家屋の倒壊など痛々しいところが多かったです。
この日、一人で学校の保健室で紹介したり、避難所を訪れて、ミニ体験講座などをさせてもらったりしました。
この夜、電車が不通で交通の便が悪いため、山戸さん宅に泊めていただき、災害の厳しい現状を教えていただきました。多くの方が亡くなり、甚大な被害をこうむった地域であることを実感し、こころのケアと継続したサポートの必要性を強く感じました。
心の傷を負い、つらい思いをしている人たちが支援を求めたり、カウンセリングを受けたりする機会は限られています。より多くの人にタッピングタッチを役立ててもらうには、家族のケアの中心である母親に学んでいただくのが一番良いのではないかと感じています。
<5月12日>
4日目は、南阿蘇と同じように大きな被害を被った益城町での支援活動でした。
この日は、福岡からインストラクターの安藤昌子さんと野田京子さんが来られ、総勢10人での活動でした。
午前中は、指定放課後等デイサービス事業所でスタッフ研修をおこないました。
まだ避難所で生活しながらのお仕事の方もおられ、技法を学びながら、セルフケアとしても有効だったのではないかと思います。
この日も二手に分かれ、途中、更科さんと学生たちは津森小学校で生徒たちとタッピングタッチ。そして、僕たちは、事業所のスタッフや、訪れている児童たちにもさせてもらいました。そうとう緊張したり、疲れていたのでしょう。野田さんにTTをしてもらって、すぐに丸まって眠ってしまった少年もいました。
この日の午後は、介護老人保健施設「平成唯仁館」を訪れ、多くの利用者さんにTTを体験していただきました。施設自体は傷んでいなかったので実感がもちにくかったのですが、利用者さんの多くは被災し、家をなくされたりしている人も多いと聞きました。内面的にはとてもつらい思いをされている方も多かっただろうと思いますので、私たちのケアの手が少しでも役立ったことを願っています。
この後、益城町立広安西小学校へ行き、タッピングタッチの講座をおこないました。とても忙しいなか、教諭と事業所スタッフが10名ほど集まってくださったのですが、みなさんとても疲れておられることがよく分かりました。アセスメントもしてもらったのですが、体の痛みや疲れも多く、参加するだけでも辛かった方もおられました。
そんな中、時間をとり、タッピングタッチを体験してくださったのですが、笑顔がもどり、心身がずいぶん楽になられたことは幸いでした。体の痛みもずいぶん下がったと喜んでいただき、とても嬉しく感じました。
正直なところ、講座のはじめに集まりも悪く、精気のないような人が多かったので、少し嫌な気分での始まりでした。自分自身の疲れもあったのでしょう。でも、体験していただき元気が戻ってこられた先生たちをまのあたりにして、そのように感じたことをとても反省しました。うまく書けませんが、サポートさせていただく姿勢を正される思いでした。
帰りの飛行機の時間の都合で、自由学園の皆さんとは、安西小学校での講座の途中でお別れになりました。効率よく手伝えるように、分かれての行動も多かったのですが、この数日間、大切な思いを共有しながらの体験は素晴らしかったです。
(学生たちの深い体験と感動は、彼らのレポートを、後ほどシェアする形でお知らせしたいと思います)
<5月13日>
5日目は、野田さんが再び福岡から来てくださり、益城町の広安西小学校の避難所を訪れました。午前中で、仕事に出かけている方も多く、ひっそりとしていました。
マイクで案内していただき、高齢の女性4名が集まってきてくださり、県庁から来ていた職員さんと一緒に体験していただきました。
野田さんがこの職員さんとされていたのですが、途中から疲れがほぐれたのか、睡魔が襲ってきたようでした。体験が終わって、ほかの皆さんと同じように笑顔が戻ってきましたが、昨日も遅くまでの仕事で、睡眠不足だったとのことでした。ここでもまた、タッピングタッチが支援を必要とする人も支援する側の人にも役立つことを再確認しました。
この日の午後は、熊本市の春日小学校を訪れました。三重県を出る前から連絡をとってもらってはいたのですが、なかなか十分なつながりを持てないままでいました。
粘り強く連絡をとり続けたことで、熊本市の最後の日に行くことがかないました。
ここではまず、震災で不登校になってしまった女の子とその母親にタッピングタッチを体験していただきました。その様子を、教諭や事業所の方々が見学しながら学ぶといった形でした。
その後、特別支援学級の生徒たちがクラスごと訪れ、野田さんと二人でミニ講座をおこないました。とてもオープンでかわいい生徒たちで、被災地にいることも忘れて一緒にはしゃぎながらでした。でも、繊細さを持った子供たちですから、余震が続く中、体調を悪くしていたり、不眠気味だったりしています。
しばらくしているとコックリコックリとい眠ってしまう生徒も何人もいました。一緒にしながら学んでいた先生も、生徒にタッチしてもらいながら気持ちよさそうにしたり、居眠りしたりしている様子を見て、とても幸せな気分になりました。とても細い生徒にしてもらっていた野田さんも、とても上手で癒された〜とのことでした。
その後、野田さんの運転で熊本市を離れ、福岡のタッピングタッチの会へ向かいました。迷子になったりで少し遅れたにも関わらず、みなさんにあたたかく迎えられ、ありがたかったです。参加者は、石田さん、安藤さん、足立さん、藤瀬さん、古舘さん、野田さん、井上さん(インストラクターではありません)。祥子さんとぼくは会員ではありませんが、参加させてもらいました。
震災を受けて、ミーティングは熱の入ったものでした。会則や今後の活動の話し合いの後、石田さんと訪れたネパールでの震災支援の状況を話しました。そして今回の熊本での支援活動に関して、ご一緒した野田さんと安藤さんと一緒にミニレポートをさせていただきました。
<5月14日>
6日目は福岡で、前日から合流した祥子さんと一緒に、アドバンス講座をおこないました。内容が、熊本地震をうけて、被災者支援でのタッピンタッチの実践や応用を含んだものだったので、約20名の熱心な参加がありました。ほぼ全員が被災者支援に関わる予定のある方々で、カウンセラーが約9割、看護3名、福祉1名でした。
<5月15日>
7日目、最終日はインストラクターの研修でした。被災者支援を視野にいれた1日研修で、さすがに疲れが出てきていましたが、熱心な参加のみなさんに支えられ良い講座をもてました。参加者は、石田さん、安藤さん、足立さん、古舘さん、野田さん、林田夫妻、佐野さん、杉山さん、岩男さん。鹿児島からは佐野さん、そして山口からは杉山さんが来てくださり、今後のタッピングタッチの広がりや支援活動に対して希望を感じました。今回、被災者支援用に協会から用意したロゴ入りのベストを着ての記念撮影をしたりして、盛り上がりました。
<あとがき>
このたび、これだけの活動ができたのは、多くの方の直接または間接的なサポートや心づかいがあったからです。ここでは個別に書けませんが、みなさんに心から感謝いたします。ありがとうございました!
7日間の支援活動に関しての簡単なレポートですが、今後の支援活動の役に立つことがあれば幸いです。そして次の課題としては、① 今回の活動を通して学んだり気づいたりしたことを、今後の支援に活かしていくこと、② 今回のコンタクトやリソースを活かして、継続した支援につなげていくこと、③ 災害の多い時代において、他の地域での災害への対応の在り方を考え、敏速かつ効果的に対応できるように工夫していくこと、などが考えられます。
このようにリストすると、少し難しく聞こえ、負担を感じる方もおられるかもしれません。
また、純粋な心ゆえに、あまり手伝えない自分を責めてしまうようなことも有るかもしれません。でも、タッピングタッチで大切にしたいことは、それぞれ、できることを無理ない範囲で、楽しみながらしていくことだと思います。
ぼく自身、お互いできることは小さくとも、それが繫がり積み重なることで大きく役立つ力になることを、今回の支援活動で感じることができました。大都市からは離れたところで起こった災害でしたが、たくさんの手が差し伸べられ、タッピングタッチによるコミュニティが着実に育ち、お互いを支え始めていることも。
タッピングタッチ自体は静かで素朴な行為ですが、人々の苦しい思いを、笑顔やほほえみに変えてくれました。自分たちの知恵や力をとり戻し、お互いを支えあいながら、この厳しい時代を乗り越えていけるように、みなさんと歩んでいければと思っています。
支援活動からの学びや今後の支援のあり方については、別の文章にまとめます。
どうぞよろしくお願いします。
中川一郎(一音)2016年5月20日