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タッピング・タッチ、コスタリカ、そして平和憲法

2006/09/08中川一郎より

私の専門は臨床心理学です。20年以上にわたって米国で暮らしていたのですが、6年ほどまえに帰国して、熊野の山間部での生活を中心に活動しています。最近、世界遺産に登録された熊野古道の近くです。

米国では、臨床心理学者として仕事をしていたのですが、様々な仕事や体験を通して、「いくら理論や学問が発達しても、いくらたくさんの治療者や施設を増やしても、病を持った人たちは減らない」ことに気がついていきました。ご存知のように、米国は心理学や臨床の分野でも長い歴史があり、理論や研究の積み重ねはもちろんのこと、資格をもったカウンセラーやセラピスト(心理療法士)がたくさんいます。精神科、心理学、ソーシャルワーク、家族療法士など、さまざまな分野の専門家がいて、トレーニングや研修制度なども充実しているため、安心してクライアントを任せられる人たちも多いのです。それにも関わらず、社会全体でみると、病気の人たちは後をたたないのです。
 これまで米国では、Community Mental Health Center というものがたくさん設立されてきました。これは、ケネディ政権のころに、市民の精神衛生の大切さを認識したことによって全国規模で作られたのですが、予防的な働きも含めて、地域社会の精神的な健康にとても貢献してきました。しかしながら、米国は国家予算の半分を軍事にまわすような国になり、福祉や教育などへの予算が削られることによって、Community Mental Health Centerのあり方も徐々に変わっていったのです。残念ながら、現在は、大切な予防的なサービスはほとんどなくなり、重病の患者をみることが主になってしまっています。病気が重くなければ診てもらえないのが現状です。
 
 とにかく、「いくら施設や治療者がいても病人が減らない」という現実をまのあたりにして、私はこれまでの「治療モデル」には限界があり、ホリスティック(統合的)な視点をもったアプローチが必要なこと。さらに「個人、家族、そしてコミュニティが、自分自身で本来の健康を取り戻していくためのサポート」が何より必要なのだと確信するようになりました。このような背景や気づきをもとに、ケアしあうことによって、誰もが健康であれるような技法を開発できないかと試行錯誤を続けました。そして、多くの人たちの経験やフィードバックをもとに開発したのが「タッピング・タッチ」という技法です。
この技法は、不安、緊張、ストレス症状などを軽減する効果があり、関係性の改善などにも役立つため、様々な分野での利用が広がっています。最近では、看護における利用も注目され、がん看護やホスピスケアへの応用が試されています。教育では、保健室でのこころのケアとしての利用や、カウンセリングルームでの利用も効果的です。また、タッピング・タッチは、そのシンプルさや高度のトレーニングがいらないことなどもあって、災害支援などにも有効です。その為、これまでも国内外で紹介しているのですが、今年の春はコスタリカへ行って紹介してきました。

コスタリカは、内戦をなくすためには軍隊をなくすことだと気がつき、1949年に常備軍を廃止した国です。国の安全や防衛のために、警察と国境警備隊がありますが、あわせて数えても1万人に満たないような規模のものです。そして、教育こそが国づくりに大切だということで、軍事費をそのまま教育に回すことに決め、基本的には今も同じような政策がとられています。
先ほど米国のことを話しましたが、コスタリカは米国とはまったく正反対の国だと言えるでしょう。米国は、軍産複合体が政経の中心を握り、戦争をしていないとやっていけない国です。コスタリカは、軍事費に税金を使わず、軍隊なしでも国が安全でいられることを示し、中米の平和に貢献してきました。人口400万の小さな国ですが、平和への貢献度の高さでは、米国よりも重要な国だと思います。
そんな国に2週間ほど滞在したのですが、タッピング・タッチはコスタリカでも好評でした。実は、平和憲法にかんするドキュメンタリーのための取材が主な目的で行ったのですが、タッピング・タッチに興味を持った女性達が、コスタリカや中米でも役立てたいからと、ワークショップを設けることになったのです。運良く、コスタリカの「チャンネル6」という番組から取材があり、朝の健康関係の番組で放映され、急遽おこなった3時間のワークショップには、40人以上の人が集まりました。
思っていなかった以上の人が集まってくださり、使った場所が一杯になってしまったうえに、夜の6時から9時までの3時間の講座だったのですが、最後の最後までみなさん熱心に参加されていました。彼らの話すスペイン語はまったく出来ないのですが、同時通訳のできる方がついてくださって、本格的な講座がもてたのはありがたかったです。

 そのほか、リンコン・グランデ高校へも訪れ、紹介することができました。貧困や犯罪がはびこる地域で、生徒たちの間での暴力なども絶えない学校なのですが、不安や否定的な感情を軽減する効果のあるタッピング・タッチはとてもよく受けとめられました。
実際には、校長先生と生徒指導の先生に説明し体験してもらってから、30人ほどの学生のいるクラスを訪れました。もちろん始めは「これなに?」って感じでしたが、しばらくして分かってくると、とっても楽しそうでした。「帰ったら家族の人たちにしてあげたい」という感想や、質問をしに来てくれた生徒が多かったのが印象的でした。体験された先生方の感想としても、子ども達の関係作りや暴力の軽減などにも役立ちそうだとのことで、継続して関わっていきたいと思っています。国の進めている平和と人権教育の導入はまだこれからとのことでしたので、これからが楽しみです。
あとほんの少しだけ、先に書いた平和憲法に関するドキュメンタリーですが、コスタリカの元大統領カラソ氏やノーベル平和賞受賞者のウイリアム氏などとのインタビュー、それから一般の人たちや学生達の街頭インタビューなども収録でき、とっても収穫の多い旅でした。
コスタリカは平和教育と軍隊を持たない国であり、今の日本の私たちにとても大切なメッセージを持っています。高校生達にインタビューするチャンスもあったのですが、軍隊がないことによる安全性や話し合いによる解決の方法などを語ってくれて、彼らの存在に感動しました。
ご存知のように、日本では、憲法を変えようとする動きが大変強まっています。9条を取り除き、集団的自衛権を認めることで、米国と一緒になって戦争していく国になることが懸念されています。教育基本法も変えることで、再び愛国心を植えつけ、国家への忠誠心と戦争を肯定する考え方を共有させようとする動きもあります。そんな中、平和と人権を守りたい人たちがいろいろな働きかけをし始めているのですが、私もその一人です。

タッピング・タッチは、人々の心をケアすることによって、社会の調和や健康を促進しようとするものです。そして、ドキュメンタリーは、本当のことを人々に知らせることによって、戦争をする国へと逆戻りし、再び悲惨な道を歩まなくてもよいようにしょうとするものです。一見、まったく違ったもののようですが、ホリスティックな視点からは、密接につながっていると感じています。

 タッピング・タッチ www.tappingtouch.org
 あなたの平和憲法を知っていますか? www.earth-citizen.org

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